君の音がなくても
◆
「それ。彼女に渡すんじゃなかった?」
家に帰った途端、姉ちゃんに指摘された。
それはもう、からかう気しかない顔だ。
いつもなら嫌がってみせるところだけど、そんな余裕はなかった。
「……渡せなかった」
姉ちゃんに押し付けながら、階段を上る。
「ちょっと紅、なにがあったの?」
慌てている声に、足を止める。
振り向く気はない。
「別れただけだよ」
そして僕は、また逃げた。
姉ちゃんが後ろからいろいろ行ってきたけど、聞かなかった。
部屋に閉じこもって、暗闇の中で思い出すのは、和心ちゃんのことばかりだ。
和心ちゃんの笑顔。
和心ちゃんの呆れた顔。
和心ちゃんが好きな服。
和心ちゃんと訪れた場所。
どれも大切な思い出すぎて、それは涙として溢れ出した。
楽しかったから、苦しい。
和心ちゃんのことを考えれば考えるほど、僕は間違ったような気がしてくる。
もっと僕が強ければ。
自信を持っていれば。
きっと、違う未来が待っていた。
和心ちゃんを大切にしたかった。
和心ちゃんのそばにいたかった。
でも、僕は和心ちゃんに相応しくないから。
僕よりも和心ちゃんを大切にしてくれる誰かが、きっといるから。
僕は、君の音がない世界で、いつまでも和心ちゃんの幸せを願っている……
家に帰った途端、姉ちゃんに指摘された。
それはもう、からかう気しかない顔だ。
いつもなら嫌がってみせるところだけど、そんな余裕はなかった。
「……渡せなかった」
姉ちゃんに押し付けながら、階段を上る。
「ちょっと紅、なにがあったの?」
慌てている声に、足を止める。
振り向く気はない。
「別れただけだよ」
そして僕は、また逃げた。
姉ちゃんが後ろからいろいろ行ってきたけど、聞かなかった。
部屋に閉じこもって、暗闇の中で思い出すのは、和心ちゃんのことばかりだ。
和心ちゃんの笑顔。
和心ちゃんの呆れた顔。
和心ちゃんが好きな服。
和心ちゃんと訪れた場所。
どれも大切な思い出すぎて、それは涙として溢れ出した。
楽しかったから、苦しい。
和心ちゃんのことを考えれば考えるほど、僕は間違ったような気がしてくる。
もっと僕が強ければ。
自信を持っていれば。
きっと、違う未来が待っていた。
和心ちゃんを大切にしたかった。
和心ちゃんのそばにいたかった。
でも、僕は和心ちゃんに相応しくないから。
僕よりも和心ちゃんを大切にしてくれる誰かが、きっといるから。
僕は、君の音がない世界で、いつまでも和心ちゃんの幸せを願っている……