21トリソミー
 次の日、約束したカフェに行き、オレンジジュースを飲みながら奈子を待っていると、

「お疲れ、妊婦」

 休憩時間になった途端に飛び出してきただろう奈子が、肩で息をしながら入ってきた。

 お昼休憩は1時間。話し込むには短い時間だ。

「全然疲れてないよ。働いてないし」

 実は、在宅ワークの仕事は全部落ちた。かといって、その後新たな仕事に応募もしなかった。松岡さんのことで引け目を感じている様子の友樹は、以前の様に『働け』圧力をかけてこなくなったからだ。

 あんな裏切りを受けたんだ。それに就けこんで何が悪いのか。

「でも、家事はしてるんでしょ? お疲れ、妊婦」

 専業主婦を【無職】とバカにするようなしょうもない性格をしていない奈子は、ただの挨拶のような『お疲れ』という労いを再度口にすると、「私はポークステーキのサラダセットにしようかな。香澄は?」とメニューを指差した。
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