21トリソミー
「私の弟が、知的障がい者だから」

「…………え」

 奈子とは、新卒で同時入社してから8年の付き合いだ。にも関わらず、私はこの事実を知らなかった。知らないことなど、ほとんどないと思っていたのに。

「……知らなかった」

「そりゃそうでしょ。言ってなかったから」

「何で言ってくれなかったの?」

「そんな風に、可哀想がられたり、不憫に思われたり、気持ち悪がられたりされるのが嫌だからだよ」

「そんなこと……」

 言葉が続かなかった。『そんなことない』なんて、とても言えなかった。

 可哀想だなとも、不憫だなとも、気持ち悪いとも思わなかったけど、失礼にも私は、奈子に同情してしまったから。
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