21トリソミー
「私が悪いんだよ。最初から弟のことを話していれば、彼らは私と付き合うことなく、他の誰かと付き合って結婚出来ていたかもしれない。彼らに無駄な時間を使わせてしまった。私、彼らのことも反対したご家族のことも、恨んでないんだよね。障がい者のいる生活って、簡単じゃないんだよ。他の人にはない手間を負わなければならない。私が彼らと同じ立場なら、同じようにしてたし、彼らの家族の立場なら『諦めなさい』って止めた。彼らは私を責めたりしなかったけど、私だったら『何でそんな大事なことを黙っていたんだ』って怒ったと思う」

 奈子は首を振りながら視線を落とした。

「……だから、結婚しないの? 男はその2人だけじゃないよ。理解のある人だってたくさんいるよ」

「理解のある人にだったら弟のことを背負わせてもいいってこと? 私はそんな風に思えないな。私はこの先、自分と弟の老後を確保するためだけに働き、生きていく。もし、香澄がきょうだい児を作ったなら、絶対にきょうだい児を犠牲にしないで欲しいの」

 奈子が洟を啜りあげながら、また豚肉を口に運んだ。奈子が堪えている涙には、今までとこれからの苦悩が込められていた。
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