21トリソミー
 でも、この【分からない】は本当は分かっているんだ。言葉を濁したかっただけ。友樹の視野には、真ん中ではなくとも離婚の文字が入っている。

「……障がいは、この子のせいじゃない。この子が悪いわけじゃない。なのに、殺せって言うの?」

 友樹と離婚なんかしたくない。でも中絶と引き換えの離婚回避なんて、絶対におかしい。

「何も悪くない子どもに『一生障がい者として生きてくれ』って、俺にはどうしても言えない。他の子がしなくていい苦労が待ってるのに……。香澄は堕ろすことに心を痛めてると思うけど、俺はこの世に誕生させることに罪悪感があるんだ」

 友樹の言葉が鋭く胸に突き刺さった。

 好きで障がい者になる人などいない。だから、差別したり排除したりしてはいけない。障がい者だからと言って引け目や劣等感を持つ必要も全くないと思う。その思いは変わらない。なのに、我が子に『一生障がい者として生きてくれ』とは、私にも言えない。
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