21トリソミー
「時間ある? お茶しようよ」

 奈子がスーパーの向かいにあるカフェを指差した。

「うん。でも、仕事は?」

「今日は休日出勤の代休だったのに、呼び出された。もう片付いたから、プリンでも買って帰ろうかなーってとこだったんだよ」

 奈子が手に持っていた籠の中を見せた。

「なるほど。折角の休みに呼び出しとか、ブラックだねー」

「イヤ。私がガッツリミスってたから、しょうがない」

「なんだ。自業自得出勤やん」

「だから、そう言ってるじゃん」

 唇を尖らせる奈子の顔を見て、

「ククッ」

 笑ってしまった。こんな風に笑うのはいつぶりだろう? と、胸が苦しくなって、涙が零れた。

「泣くほど笑うなよ」

 奈子が私の肩を、拳で軽く叩いた。

「ツボに入ったかも。めっちゃ涙出る」

 一度で出した涙はなかなか止まってくれなくて、でも久々の楽しい時間に水を差したくなくて、涙の理由は話さないでおく。
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