フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
吉野さんは横に置いたバッグからいそいそとチケットを取り出そうとしている。わたしは思わず焦った声を出してしまった。

「ま、待って待って。六時からですよね? ……ちょっと、遅い、かも……」
「え?」
彼女はびっくりした声を出す。

「ショーは一時間半くらいよ。七時半っていったら、中学生の子でも部活してたらそれくらいの時間になるじゃない。塾行ってたら帰りはもっと遅いわよ」
「そ、れはそうかもなんですけど……っ。夕ご飯の支度とか」

 わたしは裕一の顔を思い浮かべた。 たまに、飲み会のお誘いや同窓会があっても数週間前から知らせていたし、夕食の支度も全て済ませてから出てきていた。

「夕飯があればそれでいいよ 」と言いつつ、 一度だけ、ランチ会がかなり深刻な相談会になり、帰りが遅くなったことがある。バタバタと買い物して帰って、ごめんねと謝りながら慌ててお惣菜を並べたのだが、裕一は

「ふらふら外で遊んできたのに、おまけに惣菜で済ますなんて」

と嫌味たっぷりだった。それが忘れられなくて、わたしはいつも早くはやく帰らなきゃ、と思ってしまうのだ。
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