フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
昨夜、彼に見せた、というか聞かれてしまった情けない慟哭は、お昼近くの明るい陽光のなかだとまるで悪い夢のようで、車にゆったりともたれかかっている上月くんも、何事もなかったかのように「お疲れ様です。無理言って申し訳ありません」と頭を下げるものだから、
私も、「いえ、こ、こちらこそ、わざわざありがとうございます」なんて、よくわからない返事をしてしまったのだ。
車に乗ると彼は、
「ご自宅、戻られますか?」
と尋ねてくる。わたしは口籠もった。まだ、どうすべきか心を決めかねていた。バッグを持った手を落ち着かなげに髪へとやった。裕一からの連絡はあれから一切ない。髪はまだ、すこし湿っていた。
「よかったら、ついてきてほしいところがあるんですが。それと、蔭山さん、朝食は?」
「あ……ま、だです」
そういえば、昨夜はお茶を飲んだだけだ。今朝も水だけ。でも、朝食という単語をきいたとたん、猛烈におなかが空いてきた。
静かな車のなか、お腹が鳴る音なんて聞かせられない。わたしは慌てておなかを押さえた。上月くんはまたくすりと笑う。
「僕もまだなので、朝食付き合ってください。お願いします」
有無をいわせずにハンドルを握る。
そして、彼と再会したときに訪れたレトロな喫茶店で朝食とも昼食とも取れる食事をした後、市街地にあるこの超高級ブティックまで連れてこられたのだ。
コンクリート打ちっぱなしのものすごく前衛的なビルの中はフォトスタジオもあり、いったいどんな人たちが利用しているのかわからない。わたしは彼に連れられるまま、よくわからないコンセプトでデザインされたお洒落な空間に入っていったのだった。
「いかがですか? お客様のふわりとした雰囲気に合わせたセットアップにしてみました」
「はぁ……あの」