フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
ブラウスは袖がぽわんと膨らんだシフォン素材のパフスリーブで、淡いクリーム色が上品だ。同系色のロングスカートはマーメイドラインで、今雑誌で最も多い流行りの形らしい。鏡に映った自分は、五歳は若返ったような感じがして、うれしいようなくすぐったいような、すごく不思議な気持ちになる。
「とても、素敵なお洋服です……」
それしか答えられない。値札を確かめたくても、そんなものはどこを探しても見つからなくて、途端に不安になる。店員の女性はわたしが下着になったら、上下共新しいものを持ってきた。「メイクと同じです。ベースをしっかりと固めるのが大事です。ナチュラルメイクも下地を作り込んでいるでしょう?」
胸の谷間を強調され、居心地が悪いのでそっと緩めてみる。上月くんは試着室から出てきたわたしに一瞬目を見開くと、「いいじゃないですか」とにこりとした。
「あ、ありがとう。けど、こんな、お洋服」
「今日着ていくものがないっておっしゃってたでしょう」
彼は店員さんに「このまま着ていきますから、彼女の服のほうを包んで下さい」と言って財布からカードを取り出した。
「いやいや! 待って待って!だめです、だめですよオーナー」
わたしはわたわたと彼のもとに走った。ヒールのサンダルまで用意されているのだ。
彼の腕を掴んで押しとどめる。こんな高そうなお店で買い物なんてとんでもない。
けれども彼に払わせるくらいなら、自分で払わなければ、と思った。
「あの、わたし、払いますから。お願いします」
自分のバッグを探す。だが、彼がそれをいつのまにか持っていた。
「昨日僕、すこしご迷惑かけてしまったので。これはお詫びです。プレゼントさせてください」
「迷惑なんて、そんな……」