フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました


『Blue』での新バンドの試演奏会は、素晴らしいの一言だった。

わたしは数ヶ月ぶりに、再び生の演奏を聴くことができた。オーケストラバンドという感じで、クラシック音楽をベースに現代風にアレンジした楽曲はどこか懐かしく、わたしや黒田さんはじめ集まったスタッフは普段忙しく動き回っているフロアでゆったりとした贅沢な時間をたっぷり味わえたのだ。


美しい楽器の音色は、わたしの傷つき混乱した気持ちを慰め、流していってくれた。演奏後はどこかすっきりとした気持ちになれたのだ。

スタッフは普段のカマーエプロンとは違い、皆お洒落してきていて、それもとても新鮮だった。わたしのセットアップは女子スタッフに大受けで、「めちゃくちゃ綺麗です。蔭山さん!」「それ、身体の線が丸わかりのやつじゃないですか。わたし絶対無理なやつですよ!羨ましすぎるわ」
なんて褒めてくれるので、真っ赤になってお礼を言うしかできなかったけれど、とても嬉しかった。

(上月くんに感謝しなきゃだ……。来てよかった……)

「オーナーの心遣いなんですよね。これって」

黒田店長はワイン片手に、テーブルに並ぶ豪華なオードブルに舌鼓をうちながらしみじみと言った。

「スタッフへの慰労会みたいな感じですよ。だって、わざわざみんなを呼んでくれて、しかもこんなケータリングまで準備してくれてますし。バンドの方にも謝礼を払っているらしいです。僕たちには言いませんけどね」
「そうなんですね……。知らなかったです。お店も、スタッフも、とても大切にされてるんですね」

胸が温かくなる。わたしはノンアルコールのカクテルを口に運びながら、角の席で座っているオーナーを見た。
いまはバンドの方と談笑している。その横顔はやはり、どこまでも整っていて、皆の憧れのオーナー、上月和真だった。
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