フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
返事に困っているわたしに、吉野さんは気遣わしげな表情を浮かべた。
「もしかして蔭山さんの旦那さんて、束縛強いタイプ?ずっと一緒にいてほしいとか、そんな感じ?」
「えっ、あっ……!いや、そんなんじゃないと思いますけど」
そんなんじゃない。もし、そうだったら、夕食終わったらさっさと自分の部屋に篭もったりしないだろう。
考えるとなんだかまた、昨日の嫌な気分が蘇ってくる。今日はかぎ針編みのお花をたくさん編もうと思っていたけれど、それはやめた。わたしは吉野さんをまっすぐ見て、
「やっぱり、行きます」
と答えた。
バッグから財布を取り出す。
「ほんと?ありがとう! お金はいいの。空席ができるのが申し訳ないから声かけさせてもらったのよ。気にしないで、ね! 楽しんで」
「そんな……」
恐縮してしまうわたしに、吉野さんはいいからいいから、と笑って首を横に振った。
今はお金も受け取ってもらえなさそう。今度こそ、必ず吉野さんにお礼をしよう。わたしは
「絶対、楽しんできます! ありがとうございます」
と頭を下げた。
行くと決めてしまえば気分はすっきりした。デザートの、まるいバニラアイスの乗っかった濃厚なプリンを心ゆくまで味わい、おしゃべりの続きを楽しんで、お店を出るともう三時を過ぎていた。