フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
急に焦りが足元から這い寄ってくる。まだ帰ってはこないはずだけど、帰って誰もいなかったらどう思うだろう。わたしは急いで携帯を取り出し、簡単なメッセージを送った。
「今日は遅くなります。ご飯、適当にすませてください」
一応スタンプもつけて送ってしまうと、ため息が出た。
(怒ってたのはわたしなのに、どうしても気を遣ってしまう……)
まるで親に、遅くなると怒られるから、と連絡する子供のようだ。滑稽で、情けない。
美味しそうな料理が次々と運ばれてくる。早く忘れて、この時間を楽しまなきゃ、とカトラリーを手にしたとき、店内の照明が一段暗くなった。
「今日はお越しいただきありがとうございます。紳士淑女のみなさま。思う存分、音楽と料理をお楽しみくださいませ」
アナウンスの声とともに、弾けるようなトランペットの
音が響きわたった。
そして、生演奏独特のお腹に響く振動が店全体を包む。
ショーが始まったのだ。
ライブもほとんど行ったことのないわたしにとって、久しぶりの楽器の音は鮮烈だった。わたしは食べることも忘れて、流れる演奏に身も心も委ねていた。