フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
(やっぱり、音楽っていい……!!)

数曲にわたるバンド演奏が終わり、ステージは休憩に入った。店内は興奮冷めやらぬと言った感じで、皆会話に食事と大いに盛り上がっている。わたしも、感動のため息をついて飲み物に手を伸ばした。
こんなに楽しいものだとは思わなかった。吉野さんがハマるはずだ。

(こんな素敵なお店をやってるのが、自分の後輩だったなんて、ほんとに不思議。すごいね、上月くん)

店内のどこかにいるであろう、姿の見えない彼に心の中で声をかけた。

やがてステージは後半になる。照明が暗くなり、ピアノだけの演奏が始まった。わたしはグラスワインを注文して、また音楽の夢のなかに身を委ねようとした。

「今日は特別ゲストに演奏していただきます。どうぞ」

小波のような拍手が所々であがった。

そんな中、マイクの前にゆっくりと現れたのは……
サックスを抱きしめるようにして立つ上月くんだった。金管楽器特有の黄金の輝きに、照明がきらきらとはじける。
 彼は昔と同じように、艶やかな音でテナーサックスを吹き始めた。

「ぁ……」

小さな叫び声をあげそうになり、わたしは慌てて口を手で塞いだ。
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