フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました

 明るい男性の声が聞こえてきた。わたしは思わずほうっと息を吐く。上月くんかと思って覚悟していたからちょっと安心したのだ。

「あの、私、蔭山と申します。そちらのお店での求人について、お尋ねしたいのですが……」
「ああ。求人広告ご覧になったのですね。ありがとうございます。ええと」

何度も聞いた、ここからの『もう埋まってしまって』や、『ご希望の時間帯』などの言葉が続くと半ば予想していたが、電話の向こうの相手は、「ご希望の条件等は面接の時に伺っているのですが、面接について日時のご希望はございますか?」と尋ねてきた。

「えっ、あっ。あの、はい! いつでも………、いえ、五時前までならいつでも大丈夫です」

思わずあたふたと答える。相手はあっさり、「では、明日の四時に」と指定すると、すんなり電話は切れた。

「え……っ、 もしかして面接決まった?」

驚いたまま携帯を見つめる。間抜けな声が出てしまった。

(やっやった! とりあえず、面接してもらえる!)

明日。
急だけど、よかった。決まれば言うことはないけれど、どうだろう。

(決まりますように! そうだ、また吉野さんにお礼言っとかないと……)

なにからなにまでお世話になってしまって、彼女には足を向けて寝られない。深く感謝しながらわたしは夕食の買い物に出かけた。

夕食は、願いを込めてすこし豪勢に作ってみた。またハンバーグに挑戦だ。きのこと玉ねぎをたっぷり使ってソースをつくる。煮込みハンバーグにすると、簡単に美味しいお料理になるのだ。相手に怒っていても結局、毎日は続いていく。明日も明後日も、その、ずっと先も……。

ー思えばこの時のわたしは、まだ、関係が修復可能だとある意味楽観的に思っていた。だいぶ間抜けな話だけれどー
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