フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
デミグラスソースの深い香りがリビングに漂う。食卓をセットし終えたところで裕一からメッセージが届いた。
『夕飯いらないから。帰りも何時かわからないので、先に休んでください』
(ハンバーグ、今日は上手にできたし、希望通り、目玉焼きも乗っけたのにな……)
そっけないメッセージの画面に、ふっと息を吐き、肩を落として、わたしはひとり、食事を始めた。
その日の夜、夫は帰ってこなかった。
正確には、何時に帰ってきたのかわからない、だ。
十時ごろ、お風呂に入って、履歴書に必要事項を記入しながら彼を待った。呑んで帰ってきたとしても、午前一時ごろまでには家に着くはずだろう。
テレビやYouTubeを何の気なしに見ながら、明日の面接のことを考えながら過ごしているうちに、気づくとソファでうたた寝してしまっていた。
午前三時。
まだ帰ってこない。
何してるんだろう。週の真ん中の平日なのに。
メッセージを入れてみたけれど、既読にもならない。
わたしは朝の四時まで待って、結局眠気に耐え切れずに布団に入った。
ドアががちゃんと閉まる音が夢現に聞こえる。(あ、裕一。帰ってきたのかな……)
夜更かししたせいで、いま自分がどこにいるか一瞬わからなくなった。時計を見ると七時半になっている。これはもう彼はとっくに出かけている時間だった。リビングに急いだが、誰もいない。
南側のベランダから、朝日が静かに差し込んでいるだけだ。
洗面室に乱雑に脱ぎ散らかされたシャツと下着を見て、彼が帰ってきて、シャワーを浴び、そのまま出勤していったことがわかった。