フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました


(いつ帰ってきたんだろ。……始発ってこと?)

会社の送迎会などでたまにやっていたことだけれど、最近は滅多にそんなことはなかった。
疑問が浮かびつつ、やっぱり引っかかるのは昨日のことだ。
(やっぱり怒ってるのかな、夜のあれ。断っちゃったこと)

数年ぶりに欲情し、妻を誘ったのに断られたからなのだろうか。でも、こればかりは、タイミングや気持ちにとても左右される、デリケートなことじゃないかと思う。特に、うちみたいにレスと言っていい夫婦では、微妙な問題だ。

最近特に増えてきた気がする、大きなため息をもう一度吐いて、わたしは洗濯機を回すことにした。

✳︎✳︎✳︎

「ええと、蔭山、莉子、りこさんですね。飲食での接客経験あり、と。うちをお客様として、ご利用されたことはありますか?」
「は、はい。りこ、と読みます。実は先週、初めてお食事と、生バンドの演奏を見に来ました」

背筋をのばし、バッグを両膝の上に置いてぎゅっと持ちながら、わたしは何度も頷いた。目の前の男性ー電話に出たBlueの店長さんだったーは私の履歴書を丁寧に確認しながら話を進めていく。

相変わらず素敵な雰囲気の店内で、今はディナータイム前のお客様がほとんどいないいわゆるアイドルタイムだった。
「これは皆さんにお聞きしているのですが、蔭山さん、主婦ということで、お子さんはいらっしゃいますか?」

わたしは首を横に振った。
「いえ、おりません」
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