フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
背に腹はかえられぬと思い切ってきたものの、やっぱり馬鹿なことをしたかもしれない、複雑な気持ちになってきた。
わたしは、あの夜の素晴らしい生演奏を思い出して、お店をもう一度見回した。
(でも、ここで……。皆が笑顔になっていた空間で働けたら、きっと楽しいだろうな)
そんなことを思っていると、背中で店のドアベルが軽やかに響いた。
「お疲れ様」
「あ、オーナー、お疲れ様です」
どきーんと心臓が震えた。
(この、声……!上月くんだ)
「黒田店長、今日面接あるって連絡くれたから、ちょっと寄ってみたんだ」
『先輩、いま、しあわせ?』
再会の夜の言葉が鮮明に甦る。
あのときと同じ、深い中低音の声が背中で聞こえた。
「ああ! そうなんですね。ちょうどよかった。いま、面接終えたばかりなんですよ。こちらが応募してきてくださった蔭山さ」
「あれ……。朝比奈先輩?」
「いや、ええと、蔭山さん……で、したよね?」
店長さんは訝しそうに履歴書を見る。
「……はい。蔭山、です」
「ちょ…… っと先輩ってば」