フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました


「でも、蔭山さんはご自分が知り合いってことを言ったら僕が採用しなきゃいけなくなるって気を遣ってくれたんじゃないですか?」
「いえ、そんな、本当に思いつきで……」

わたしが恐縮していると、黒田さんは
「とりあえず、僕個人的には採用のつもりでいたので、オーナーとお知り合いだったとしてもその結果は変わらないですよ」
と笑ってくれた。
「一緒に働くのは主に黒田くんたちだから、君がOKなら僕が断る理由はないけれど」

少し不満げだったが、上月くんは
「面接終了なら、彼女はもう帰ってもらっていいかな」
と黒田さんに尋ねる。

「ええ。あとは連絡待って頂く形です」
「そう、じゃあ、また後で戻ってくるよ。さ、帰りましょう、先輩」
「え、あの……」
背中を押されるようにして、店を出る。彼はすたすたと歩き出していた。
わたしが躊躇っていると、くるりと振り向く。手には車のキーを持っていた。
「送っていきますよ。わざわざウチに面接に来てくれたお礼です」
悪戯っぽい目つきだが、有無を言わせない感じだ。
(こうなると頑固だったよね、上月くんて)
わたしは素直についていくことにした。
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