フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
今は新しいお店はSNSで話題に上ると、休日には瞬く間に人で溢れてしまう。平日夕方でも怪しいので、思いついた時に行っておくほうがいいのだ。
ハンドメイドサイトでの売り上げが入金されたこともあり、すこし贅沢な時間を過ごそうかと考えていた。
まとめてアップにしていた髪を下ろし、ふと気づく。
(そういえば上月くん……、いや、オーナー、今日はランチに来なかった)
彼はたいてい週の後半にやってくるのだが、今日はまだ現れていない。忙しくしているのだろうか。離婚したと言っていたのだから、時間は自由にあるのだろうけれど、食事などはどうしているのだろう。
いつも、雑誌のモデルかと思うほどのスマートな格好で爽やかに現れる彼は、Blueの店内ももちろん、お客さまにも非常に人気がある。
(あの頃は購買の菓子パンばっかり食べてたけど。あと、コーヒー牛乳のパック。めちゃくちゃお子さま舌だったよね)
それが今はカフェレストランでのライブや静かな喫茶店、と食とエンターテイメントを仕事にしている。生意気だと言って上の人に絡まれていた頃もあるのに。
なんだかおかしくなってしまい、わたしは頬を緩めながら更衣室の扉を開けた。すると、大きな影が目の前に立ち塞がっていた。 ぽすん、と顔がぶつかる。
「あっ……! すみませんっ」
「おっと」
慌てて一歩後ろに引こうとしてよろめいてしまった。うわ、とひっくり返りそうになるのを、がしりと肩を掴まれる。力強く引き戻されて、どしんと尻餅をつくのを回避できた。でも、腕を引き戻された拍子に、相手に抱き込まれるかたちになってしまう。
「大丈夫?先輩」
「ひゃ……」