フラれた後輩くんに、結婚してから再会しました
「ニコニコなんてしてないよ! もう!」
急に暑くなった身体を冷ますため、手で頬に風を送る。全く効き目はないけれど、彼はそれを楽しそうに見ていた。本当は彼のエピソードで一人笑っていたなんて、言えるはずない。
「い、今からお昼?いつもより遅いね」
恥ずかしいのをごまかすみたいにわたしは、精いっぱいすました顔で尋ねた。
「あー。今日は昼メシというより、おやつを食べるつもりです」
「ん? どういうこと? たしかに、もう三時すぎてるけど……」
彼はわたしを見てすこし考えるそぶりを見せると、急に「オーナー」の顔になった。
「先輩……。えと、蔭山さん。このあと時間ありますか?」
珍しく、蔭山呼びだ。彼がこれを使うのは、雇用契約や、お店の中のことに関しての時だけだった。わたしも敬語に切り替える。
「あ……、はい。大丈夫ですけれど、あの……なにか、お話しでしょうか。勤務態度とか」
わたしは内心ビクビクしていた。まさか、何か、お客さまからクレームでも入ったのだろうか。旧知の間だとしても、オーナーに対する態度が従業員の枠を逸脱してるとか? それとも、わたしの態度が誰かの気に障ったのかもしれない。