旅先恋愛~一夜の秘め事~
「見合いはしない、恋人がいるって何度も説明したのに、全然理解してくれない」


「今から電話して、もう一度話してみたら?」


「無理よ。私が応じないからとうとう強硬策にでたのよ」


麗はこめかみに綺麗にネイルした指を当てる。


「以前から母は、椿森家に私を嫁がせたがっていたのよ。あんな格式高い名家に相手にされるわけないのに! 罠にかけるような真似をして返り討ちにされたらどうするのよ」


「でも麗は知らなかったんでしょ」


「そんな甘い話じゃないの。椿森の御曹司といえば常に冷静沈着、社内一の切れ者と呼び声も高いうえ、女嫌いで有名なんだから」


「そうなの?」


私の返答に、麗が驚いたように目を見開く。


「……待って、唯花。傘下の会社に勤務しているのに、まさか御曹司を知らないの?」


「失礼ね、知ってるわよ」


とはいえ、私が普段従事している業務は本社とほぼ接点がない。


「じゃあ、御曹司の名前は?」


「椿森(きょう)さん、でしょ」


名前は知っているが、顔立ちなど外見についてはほとんど知らない。

これを言うと呆れられそうなため、とりあえず黙っておく。
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