旅先恋愛~一夜の秘め事~
結局早々の引っ越しを決意し、今日の作業が決まった。

麗に結婚についてメッセージで簡潔に伝えると、疑問符だらけの返信が送られてきた。

そういうわけで今日の手伝いをお願いしつつ、改めて説明する運びになったのだ。


「なんにせよ、愛されているようでよかったわ」


「……どう、かな」


歯切れの悪い返答に、麗が訝し気に首を捻る。


「大事にしてもらっていると思う。でも暁さんの本心はわからない」


「は?」


眉間にギュッと皺を寄せた麗に、古越さんの先日の訪問の件や私の心の内を吐露する。

苦虫を嚙み潰したような表情で話を聞いていた麗は、私を軽く睨む。


「なんで椿森副社長に真実を尋ねないのよ?」


「……だって、今もその人を想っていると言われたら? 私との結婚を急いだのは妊娠したからと現実を突きつけられるのが怖い」


臆病だって、卑怯だって、わかってる。

彼の優しさに付け込む私はズルい。

こんな歪な始まりの結婚がうまくいくのか、不安で仕方ない。


「だからって本心をお互いに明かさなきゃ距離は縮まらないでしょ。大体、女嫌いで有名な人が情事後に逃げた相手をわざわざ捜す? 余程大切か、気になる存在でもない限りそんな真似しないわよ」


「……でも、なんで私を捜したのか、大切にしてくれるのかわからない。京都で過ごした短い時間に気に入られるほどの特別な要素が私にあると思えない」


以前からの知り合いだったなら、お互いの長所や短所といった人となりを知っているだろう。

でも私たちにそんな過去は存在しない。

マイナス思考に陥ってうつむくと、麗の呆れた声が頭上から届いた。
< 106 / 173 >

この作品をシェア

pagetop