旅先恋愛~一夜の秘め事~
寝室を挟んで左右に彼の仕事部屋と私の部屋がある。

八畳ほどの広さの私の部屋には、大きめのウオークインクローゼットと小ぶりなヘアドレッサーまである。

ひとり暮らしをしていた頃より、はるかに立派な家具類に驚いたのは言うまでもない。


妊娠してから眠りが浅くなり、夜中に数回目が覚める。

気分が悪くなる日もあるので、彼の睡眠を妨げる可能性が高い。

そのため寝室を別にしようと提案したが、すげなく却下された。


『夫婦なんだからともに眠るのは当然だ。俺たちの子どもをお腹の中で育ててくれているだけでも大変なのに、俺の仕事まで心配しなくていい』


強引さと思いやりのこもった台詞に、胸が熱くなったのは記憶に新しい。


寝室にやってきた彼と明日の予定について話し合った。

ベッドの中に入ってきた彼は私の背中を包み込むように抱きしめ、頭頂部にキスをする。


「おやすみ」


今では慣れ始めたこの温もりが嬉しくて切なかった。
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