旅先恋愛~一夜の秘め事~
指示があったのか、店員は暁さんだけに金額を提示したので、値段がわからない。

結婚指輪はふたりで贈り合うものだから私も支払いたい、と暁さんに伝えるとやんわりと断られた。

けれどさすがになにもかも準備してもらいすぎている。


「少しは負担したいの」


「じゃあ、今度お揃いのキーケースを買ってほしい」


「それはもちろん構わないけど、指輪の値段に見合わないでしょう?」


「お揃いのものを一緒に選んで持てるほうが価値がある」


彼はふわりと相好を崩す。


「それは、そうかもしれないけれど……」


「じゃあ決定だ。今度一緒に探しに行こう」


自然な流れで早々に話を切り上げる。

この人は会話の主導権を握るのが本当に上手い。


「絶対だからね」


小さく嘆息して念押しをすると、暁さんはなぜか楽しそうに眉尻を下げた。


その後、デパート内で昼食を済ませ、ベビー用品の下見に向かった。

小さくて可愛らしい品々に心が躍る。

お互いの好みを伝え、意見を交わす。

気が早いかもしれないが、気に入ったものを少しだけ購入し、デパートの出口へと向かった。
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