旅先恋愛～一夜の秘め事～
「まだ正式な発表は行っておりませんが、唯花と私の間に素晴らしい縁ができて嬉しい限りです」


「で、ですが、椿森副社長には大切な方が京都におられるのでしょう！？　その方はどうされたのですか？」


ここがデパート内だと忘れているのか、古越さんは大きな声を張り上げた。

怒りを露わにし、私をきつく睨みつける。


「……ご存知なのかしら？」


端的な台詞に、先日の件も含めて私に伝えているのだとわかった。

ごくりと喉がなる。


「私と唯花に関する件は夫婦ふたりで解決いたします。不要な詮索は控えていただきたい。なにより私は人の外側しか見ない方は苦手でしてね。急いでいますので失礼します」


絶対零度の眼差しで、暁さんが古越さんを睨みつける。

その迫力に古越さんはヒッと小さな声を漏らし、顔色を変える。


「今後、軽々しく妻に声をかけないでいただきたい」


とどめと言わんばかりに冷たい声で言い放ち、古越さんの脇を足早に通り過ぎる。

手を引かれた私は、急いで足を動かす。

古越さんにすれ違いざまに小さく頭を下げたが、彼女は真正面を見据えたまま、顔面蒼白の状態で立ち尽くしていた。


暁さんは無言でデパート内の駐車場に向かい、私を助手席に乗せ、運転席に腰を下ろした。

眉間に皺を寄せたままの彼に、どう声をかければいいか迷う。
< 115 / 173 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop