旅先恋愛~一夜の秘め事~
その人を、今も好きなの?


どうして、そんなに困った表情で話すの?


なぜ、私から視線を逸らすの?


凍りついていく心の中で、必死に問いかける。


「その方は見つかったの?」


「……ああ」


端的な返答に、心に鋭い刃が刺さった気がした。

ヒリヒリと痛む胸に気づかない振りをして、無理やり口角を上げる。


「よかった、ね」


ほかになんて言えばいい?


もう会ったのか、会いたいのかとはとても尋ねられない。


短く感想を伝えるだけで精一杯。

これ以上なにかを口にしたらきっと泣いてしまう。

間違いなくあなたを質問攻めにして傷つける。


いつ、見つかったの?


その人は、今、どこにいるの?


……あなたの想いは伝えたの?


尋ねたい質問は増えていくが、頭の中をグルグル回るだけで、声に出せない。

明確な言葉にしたら、きっとこの関係は破綻してしまう。

暁さんが心から求める女性は私ではないという現実を、受け止められない。


だって夫婦として暮らしたこの短い月日に、私の恋心はどんどん育ってしまった。

真っ直ぐに見つめてくれる優しい目も、名前を呼んでくれる声も、抱きしめてくれる腕もなにもかもが愛しい。


そのすべてを失うのは耐えられない。

どうしても奪われたくない。


私さえ、知らない振りをすれば、彼の本心に気づかないままでいれば、きっと暁さんはここにいてくれる。


卑怯な私は勝手に結論付けて、そのまま沈黙を貫いた。


暁さんは結局、自宅に戻るまでなにも口にしなかった。
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