旅先恋愛~一夜の秘め事~
「一緒に宿泊できなくてごめんね」


「気にしないで。おば様が早く認めてくれるように応援してるわ」


「ありがとう」


フフッと微笑むハトコの姿にふと肝心な事柄を思い出す。


「ねえ、私、ホテル名を知らないんだけど……」


「唯花の勤務先の系列、椿森ホテルよ。二年前に老舗旅館を買収して自社設計で全面建て直しの報道があったでしょ。覚えていない?」


本社が手掛けた案件だが、もちろん知っている。

桜の花びらを模ったロゴマークが美しく、最新の設備と有名ブランドのオリジナルアメニティや各種サービスが注目され、雑誌で特集記事も組まれていた。

本社が直轄しているホテルや商業施設等には、なにかしらの花びらを模ったロゴマークが頻繁に使用されている。

ひと目で椿森ホールディングスと関わりがある施設だとわかるうえ、ロゴマークがオシャレだと利用客にも評判らしい。


「ホテル好きの唯花なら絶対気に入るわよ」


「確かに、いつかは宿泊したいと思っていたけど、なんで教えてくれなかったのよ。子会社勤務の私が招待客として宿泊するのはダメでしょ……」


「どうして? 今の唯花は芳賀の関係者なのよ。父もホテル側にも血縁者が宿泊する旨を伝えて了承を得てるんだから問題ないわ。そもそも社員だなんてバレないわよ」


血縁といってもハトコは限りなく遠縁だと思うのは私だけだろうか。

できすぎた偶然にため息が漏れる。

こうなったら会社にバレないよう、気をつけてやり過ごすしかない。

もっと早くに確認すればよかったと後悔と反省を繰り返すが、今さらどうしようもない。
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