旅先恋愛~一夜の秘め事~
背中を押してくれるハトコに心からの感謝を告げる。

不安で雁字搦めになっていた心が、少しほぐれた気がした。

麗の言うとおり、悩むなら、行動して気持ちを伝えてからにしよう。


『ねえ、さっき急遽仕事で椿森副社長は帰りが遅くなるって言ってたわよね?』


「うん、本当は九時前には帰宅できる予定だったから夕食を一緒に、って考えてたんだけど……」


『だったらお弁当でも差し入れしてきたら? 社員なんだし怪しまれないでしょ』

麗の提案に驚き、声が詰まる。


『残業で帰りがすごく遅くなるときって、忙しいからコンビニに買いに行きにくいし、お弁当とかあればってよく思うの。以前、同僚がドーナッツを差し入れてくれてね、すごく有難かったわ』


椿森ホールディングスの副社長なら部下が気遣って差し入れたり食事の準備をするかもしれないけど、と麗は付け加える。


「お弁当……考えたことなかった」


『疲れているときに、慣れ親しんだ妻の味を口にするとホッとするでしょ』


「そう、かな……でも、今まで差し入れすらしていない私って気が利かなさすぎね」


麗に言われるまで思いもしなかった。

大事にしてもらっているのに、些細な気配りすらできないなんて妻失格ではないか。
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