旅先恋愛~一夜の秘め事~
弁当を取りに来ると言われ、さすがに遠慮した。

午後七時頃には届けたいと申し出ると、迎えの車を用意すると言われ面喰った。

断ると、『夜遅くに副社長に無断で外出許可を出したと私が叱られます』と真剣に言われて驚いた。

外出許可、とは大袈裟すぎやしないだろうか。

しかも午後七時は普段私が退社する時間とそう大差ない。

タクシーで行きますとなんとか押し切ると、タクシー乗車時に必ず連絡するよう言われた。

暁さんをはじめどうにも周囲が過保護すぎる気がする。


その後、冷蔵庫の中身と相談しつつ、お弁当を作った。

私が引っ越しの際に持ち込んでいたお弁当箱と小さめのタッパーにおかずやおにぎりを詰めて紙袋に入れる。

台所の後片付けを済ませ、身支度を整える。


紙袋を手にして、午後六時半過ぎに自宅を出た。

最寄り駅前のタクシー乗り場に向かう途中で、秘書室長に連絡するとマンションにタクシーに迎えにきてもらっていない点を注意されてしまった。

苦笑しつつタクシーに乗り込み、会社へと向かった。

本社は区役所のすぐ近くにあるので、道の説明がしやすい。

本社屋は目立つので運転手はすぐにわかってくれた。

喜んでもらえるかなと膝の上に置いた紙袋をそっと抱きしめる。

心の中にくすぐったくて温かな気持ちがこみ上げる。

暁さんの反応が楽しみで自然と頬が緩む。
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