旅先恋愛~一夜の秘め事~
これ以上、聞いてはいけない。


今すぐここから去らなければ。


自分に必死に言い聞かせるが、足が縫いつけられたかのように動かない。


「当然です。今回の件で一番傷つくのは綿貫さんなんですよ」


ああ、やっぱり。


与えられた答えに目眩がする。

わずかな希望が粉々に打ち砕かれていく音が聞こえた気がした。

最近は感じていなかった吐き気がこみ上げて、目の前が真っ黒に染まっていく。

足が震えてぐらぐら揺れ、今、自分が真っ直ぐ立てているのかもわからない。

うすうす感じていた最悪の予感が確証に変わり、自分の馬鹿さ加減を笑いたくなる。

彼は時期が来たら、私と別れるつもりなのだ。


……なにを期待していたの?


誰より堤さんを大切に想っている暁さんに、本気で好かれるはずがない。

彼はただ赤ちゃんへの責任感で動いていただけだ。


……本当は、とっくにわかっていたでしょう?


あの人にとってこの結婚は罰ゲームみたいなものだと、心のどこかでずっと思っていた。

赤ちゃんを授かったのは私にはとても幸せな事象だけど、彼には違うのではと怖かった。
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