旅先恋愛~一夜の秘め事~
12.「そばにいたい」
必死に嗚咽を堪え、うつむきながら足早にエントランスを抜ける。

相変わらず足に力はうまく入らないが、こんな惨めな姿を周囲にさらしたくない。

先ほどまで乗っていたエレベーターの中でずっと考えていたのは、暁さんと離れる方法だった。

彼が好きな人の元へ憂いなく向かうために、必要な手続きはひとつだ。

このすぐ近くに区役所があるのがなんとも皮肉だと、悲しみで占拠されている心の片隅で感じた。

しかも調べたところ今夜は延長窓口らしく、今なら用紙をすぐ受け取れる。

喜ばしくはない偶然の積み重ねが、心の傷をどんどん広げていく。

区役所に向かって足を動かしたとき、バッグの中のスマートフォンが着信を告げた。

暁さんには見つかっていないはずだと思いながらも、震える指でスマートフォンを取り出す。 

液晶画面に表示されていたのはハトコの名前だった。

すぐさま画面をタップすると、聞きなれた明るい声が耳に届く。


『ねえ、今どこ? 無事に差し入れはできたの? 報告がないから気になっちゃって』


「……麗」


ハトコの声に我慢の糸が切れ、目頭が熱くなった。

瞬きとともに涙が頬を伝った。


『ちょっと、唯花? どうしたの、泣いてるの?』


焦って問いただす麗に、今しがた起こった出来事を簡潔に伝えた。


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