旅先恋愛~一夜の秘め事~
「この件、副社長はご存知なのですか?」
先ほどと同じような質問を、かなり慌てた様子で堤さんが口にする。
「いえ……暁さんは私がここにいることも、離婚を考えているのも知らないと思います」
小声で答えた私に、堤さんは一瞬眉間にきつく皺を寄せ、その後眉尻を下げた。
「……もしや副社長になにか言われたのですか?」
「違います。暁さんはとてもよくしてくださっています」
「離婚を副社長が切り出す……はずないですね。あれだけ入籍を急いだ人ですから」
「……はい。私が妊娠したからですよね。責任感の強い方なので」
私の言葉に、堤さんが驚いたように瞬きを繰り返す。
「まさか……副社長が綿貫さんと結婚したのは、責任を取るためだと思っていたのですか?」
「そうでなければ、京都で出会って数日過ごしただけの私と入籍する理由がありません……大切な方がいらっしゃったはずなのに」
その張本人に向かって話すなんて滑稽すぎる。
でも、ふたりの邪魔をしない意思を示すいい機会なのかもしれない。
……私が堤さんだったら、よかったのに。
この期に及んでまだ、未練にも似た恋情が心の中で燻る。
叶わない、どうしようもない恋心を世の中の人はどういう風に昇華させているんだろう。
先ほどと同じような質問を、かなり慌てた様子で堤さんが口にする。
「いえ……暁さんは私がここにいることも、離婚を考えているのも知らないと思います」
小声で答えた私に、堤さんは一瞬眉間にきつく皺を寄せ、その後眉尻を下げた。
「……もしや副社長になにか言われたのですか?」
「違います。暁さんはとてもよくしてくださっています」
「離婚を副社長が切り出す……はずないですね。あれだけ入籍を急いだ人ですから」
「……はい。私が妊娠したからですよね。責任感の強い方なので」
私の言葉に、堤さんが驚いたように瞬きを繰り返す。
「まさか……副社長が綿貫さんと結婚したのは、責任を取るためだと思っていたのですか?」
「そうでなければ、京都で出会って数日過ごしただけの私と入籍する理由がありません……大切な方がいらっしゃったはずなのに」
その張本人に向かって話すなんて滑稽すぎる。
でも、ふたりの邪魔をしない意思を示すいい機会なのかもしれない。
……私が堤さんだったら、よかったのに。
この期に及んでまだ、未練にも似た恋情が心の中で燻る。
叶わない、どうしようもない恋心を世の中の人はどういう風に昇華させているんだろう。