旅先恋愛~一夜の秘め事~
13.俺だけのお姫様 side 暁
カーテンの隙間から漏れる柔らかな日差しに、ゆっくりと瞼を開いた。

腕の中にある温かな体温に、穏やかな幸せに満たされる。

スウスウと小さな寝息を立てる、最愛の妻の額に口づけた。



差し入れに来てくれた唯花が行方不明になったとき、心臓が止まった気がした。

大抵の出来事には動じない自信があったのに、あの瞬間目の前が真っ白になった。

冷汗が噴き出る背中と冷たくなっていく指先の感覚はきっと生涯忘れないだろう。

唯花を失うかもしれないという恐怖はもう二度と味わいたくない。


最愛の妻が消えてしまった事態に焦る俺を、毅然とした態度で敏腕秘書は叱りつけた。


『そもそも副社長が中途半端な態度をとらずに、さっさとすべてを打ち明けていればよかったんです! 身重の妻を悩ませるなんてありえません!』


さすが学生時代からの友人なだけあって容赦がない。

ただ彼女が偶然にも唯花を見つけてくれていたのは朗報だった。

しかし芳賀の令嬢に唯花を預けたと報告され、歯噛みする思いだった。

すぐさま迎えに行こうすると秘書に待ったをかけられた。

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