旅先恋愛~一夜の秘め事~
『迎えにいくのは賛成ですが、どこに向かわれたか存じませんよ。大体迎えに行ってどうされるおつもりですか?』


『自宅に連れ帰るに決まっている!』


彼女に強い口調で言い返した俺は動揺のため、冷静さを失っていた。

芳賀家に向かった唯花が俺の元に戻らなくなったらと怖かった。

長い付き合いの秘書は通常とは違う、俺の荒れる心中を見抜いていたのかもしれない。


『その前に綿貫さんに伝えなければならないことがあるでしょう!』


『俺の想いを押しつけるわけにいかないだろ。それに古越家の件もうまく片付いていない』


秘書は俺を睨みつけ、言い切る。


『失礼を承知で申し上げますが、綿貫さんが知りたいのは副社長の本心です。副社長は綿貫さんの不安をまったく理解できていません』


『……カッコ悪いだけだろ、俺の本心もこれまでの行動も』


『恋愛はカッコ悪いものです。相手を想えば想うほど空回りしたり、段取り通りにいかなくなります。私もさんざんみっともない姿を夫に見せてきました。一生をともに生きる人にカッコつけてどうするんです? 弱さも情けなさも全部見せればいいじゃないですか』


秘書の言葉は凝り固まっていた俺の考えを粉々に打ち砕いた。


『むしろカッコばかりつけて、表面ばかり取り繕って、大切な相手を失うほうが怖いです』


目からうろこが落ちた気がした。
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