旅先恋愛~一夜の秘め事~
失いたくないと、大事にすると、誓いながら俺はどれだけ彼女を傷つけていた? 


自分のバカさ加減に言葉を失った。


『……俺は間違えていた。ありがとう、迎えにいく。絶対に唯花だけは失いたくない』


『それでこそ副社長です。多少は落ち着かれたようでよかったです。綿貫さんは芳賀麗様のご自宅におられます。出過ぎた真似をいたしまして申し訳ありません』


秘書の返答に、目を見開いた。

俺の唯花に対する気持ちを見極め、あえて行き先を話さず苦言を呈してくれたのだと、冷えた頭で理解した。


『……謝る必要はない。おかげで目が覚めて、感謝している。唯花ときちんと話して、一緒に帰れるように努力する』


決意を伝えると、堤は涙を堪えたような表情で力強くうなずいた。


『おふたりの幸せを心から祈っています。副社長の長年の想いが届きますように』


有能な秘書の激励を背に受けて、急ぎ唯花を迎えに向かった。

愛する妻を抱きしめた瞬間、不覚にも心が震えた。

伝わる体温や息遣いに胸が詰まる。

愛しさや心配、安堵、不安といった様々な感情が溢れ出た。

落ち着いて対応するなんて、到底無理だった。

自分以外の誰かをこれほど愛しく想う日が来るとは思いもしなかった。

どんなときも冷静沈着と言われた俺の心を揺さぶるのは、今もこれからも唯花だけだ。

失いかけて、彼女の大切さを再認識した。

けれど、さすがにこれほど情けなくカッコ悪い失態は、もう二度と犯したくない。
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