旅先恋愛~一夜の秘め事~
「二階と記載されていたのでここだと思ったのですが、見当たらないので……」


「確かに二階だがレストランは隣の棟の二階だ。ここには宴会場と事務所しかない」


「えっ」


「そこに書いてあるだろ、北棟って」


「……すみません、見落としてました」


指摘された箇所を確認し素直に告げると、なぜか彼がハハッと声を漏らした。


「あの……?」


「悪い。わざとかと思ったけど本気で間違えたんだな。一緒に行こう」


「え? いえ、大丈夫です」


「いや、俺も朝食を久々に食べたい。それにチケットの改善点を教えてもらえて助かった」


「どういう意味ですか?」


「ホテル各施設内で迷う宿泊客への対応だ」


ふわりと相好を崩した彼に鼓動が跳ねる。

初めて目にする優しい表情に、なぜか心が落ち着かない。


なぜこの人が改善点を気にするのだろう? 


ここの関係者か従業員なのだろうか? 


でもそれならわざわざ朝食を食べようなどと口にするはずがない。


「芳賀、麗さん?」


あれこれ思考を巡らせていると、彼がハトコの名前を呼んだ。


「えっ?」


「名前、違うのか?」


チケットと私を交互に見ながら彼が尋ねる。


「いえ、それは宿泊予約をしてくれたハトコの名前で……私は唯花です」


一瞬苗字も伝えるべきかと考えたが芳賀家の血縁者として宿泊しているので、下手に名乗るべきではないと思った。

いくら親切にしてもらったとはいえ、昨日会ったばかりの見ず知らずの男性に本名を教えるのは気が引ける。
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