旅先恋愛~一夜の秘め事~
食事を終え、カフェオレを飲んでいると、再び彼が口を開いた。


「観光場所は決めているのか?」


「はい。同僚に教えてもらったお店を回るつもりです」


「迷ったらすぐ連絡しろよ」


何気なく言われた台詞に目を見開く。


「大丈夫、です。暁さんの邪魔をするわけにはいかないので」


咄嗟に言い返した自分を褒めたい。


「構わない。今朝も迷ってただろ」


「あれはレストランが見つからなかったんです」


「それを迷ったっていうんだよ」


ククッと彼がおかしそうに声を漏らす。

冷静な表情が崩れ、ほんの少し下がった目尻に鼓動がひとつ大きな音を立てた。

心の奥がざわついて落ち着かない。


こんなのは、おかしい。


「……なんでそんなに親切にしてくださるんですか?」


思わず零れた私の本音に、彼が数回瞬きをする。


「心配だから。……ここ、ついてる」


そう言って、彼が私の唇の端に骨ばった指を伸ばす。

親指で拭われ、触れられた感触に頬が一気に熱をもつ。


「黙ってるとしっかりしてそうなのに……可愛いな」


眦を下げる彼に、ひゅっと息を呑んだ。

綺麗な二重の目に魅入られそうになる。

一気に変化した、甘さを伴う雰囲気に狼狽えてしまう。


「今日、ホテルに戻ったら連絡しろよ」


「え?」


「無事に帰れたか心配だから」


さらりと言われた言葉にすぐ反応できない。

飲み物を口にしたばかりなのに喉がカラカラに乾いていく。
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