旅先恋愛~一夜の秘め事~
「約束だ。絶対に電話しろよ?」


妖艶な眼差しを向ける彼の真意がはかれない。


「なんで……」


「思った以上に気に入ったから」


口角を上げた彼が、テーブルに置いていた私の指にそっと触れる。

じんわり伝わる体温と、ただの知り合いにしては不似合いな所作に戸惑いを隠せない。


「……部屋まで送ろう」


呆然とする私を尻目に、彼がスッと立ち上がる。

ひとりで戻ると何度伝えても聞き入れてくれず、なぜか手も繋がれてしまう。

さらに自分の連絡先を教えたのだからと、私の携帯番号を強引に聞き出された。

部屋番号を知られるのはさすがにまずいと考え、エレベーターホールで再び断ると彼が目を丸くする。


「へえ、警戒心は一応あるんだな」


「……どういう意味ですか」


「言葉通りだ。そもそも一番最初に、俺に朝食チケット見せただろ。あれには部屋番号や名前の記載があるし、今さらだ」
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