旅先恋愛~一夜の秘め事~
暁さんに戻った報告をしていなかったが、さすがにここで電話をかけるのはマナー違反だろう。

部屋に戻り次第連絡しようと独りごちる。

夕方の時間帯のせいか、店内の人影はまばらだった。

すぐに窓側の見事な庭園が一望できる席に案内され、メニューを広げる。

美味しそうなフルーツタルトの写真に目を奪われ、温かいミルクティーとともに注文した。

メニューを閉じ、改めて周囲を見回すと店内最奥の、観葉植物の陰となって目立ちにくい場所にひとりの男性が座っていた。


私の席からは男性の後ろ姿しか確認できないが、テーブルの上には五つほどケーキが置いてあった。

あまり目にしない光景に甘いもの好きなのかとなんとなく思った。

しばらくして男性の元に長身の女性がやってきて、さらにケーキを追加する。

男性が女性に顔を向けた途端、息を呑んだ。


「……暁さん?」


思わず漏れた声は掠れていた。

もしやデートの最中だろうか。

覗き見するつもりはないが、さすがに居心地が悪い。

とにかく気づかれないようにしようと視線を逸らす。

けれど、ふたりで食べるにしては多すぎるケーキの数とどことなくくだけた態度が気になってしまう。


なんでこんなに心がざわざわするの? 


彼のプライベートに口を出す権利なんてないのに。
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