旅先恋愛~一夜の秘め事~
そのとき、店員が注文した品を運んできた。

小声で礼を述べ、ケーキを食べようとフォークを手に取る。

けれど動揺していたせいか、皿の上にフォークを落としてしまい耳障りな音を立ててしまう。


もう、なにをしているの?


恥ずかしさで頬が熱くなる。

慌てて周囲に頭を下げた途端、こちらに視線を向けた暁さんと目が合ってしまった。

彼は驚いたように、目を見張っていた。

取り繕うように会釈し、注文したケーキに視線を移す。

うつむいて平静を装うとするが、暴れだした鼓動はなかなかおさまらない。


早く食べて部屋に戻ろう。


自分に言い聞かせつつ、ケーキを口にしていると、フッと目の前が陰った気がした。


「来ていたなら、声をかけてくれたらよかったのに」


突如響いた低い声に思わず頭を上げると、眼前には暁さんの姿があった。


「いつ帰ってきたんだ? ホテルに戻ったら連絡するよう約束しただろ?」


そう言って、彼は私の目の前の席に自然な動作で腰を下ろす。


「あのっ、暁さん……」


「俺の質問に答えて」


穏やかな口調なのに、反論できない気がするのはなぜだろう。


「ホテルには先ほど着いたばかりです。部屋に戻り次第連絡しようと思っていたのですがすみません……あの、お連れの方はよろしいのですか?」


おずおずと答えると、彼がほんの少し目を丸くする。
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