旅先恋愛~一夜の秘め事~
副社長と堤さんが呼ぶくらいなのだから……って、ちょっと待って。


今しがた耳にした役職名に、戸惑いと混乱を隠せない。


「……副社長……?」


「ええ、副社長は今日一日ずっと綿貫様を心配されていました。あんなにスマートフォンをチェックしている姿は初めて拝見しました」


私の動揺を知ってか知らずか、堤さんは楽し気に話す。


「いえ、あの……副社長って暁さんが、ですか?」


ふたりを交互に見つめながら尋ねると、状況を理解したのか堤さんが暁さんに厳しい視線を向ける。


「副社長、まさか……」


「……今から話すつもりだったんだ」


暁さんはため息を吐いて、私を見つめた。

そして胸ポケットから名刺入れを取り出す。

差し出された名刺を受け取った私は、書かれた文字に息を吞んだ。


【椿森ホールディングス副社長 椿森(きょう)


「う……そ」


一気に血の気が引く。


勤務先の関係者に会いたくないと考えていたのに、まさかの経営者一族に遭遇するなんて。


薄々高い地位に就いている人だろうと予想はしていたが、副社長だとは思いもしなかった。

頭の中を、昨日麗から教えられた情報が駆け巡る。

もう、なんで親会社の副社長の面差しを確認しておかなかったの?

自分の失態に後悔しかない。
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