旅先恋愛~一夜の秘め事~
からかわれている?


頭の中にいくつもの疑問符が浮かび上がる。


「あ、の……」


掠れた声を出す私に彼がフッと頬を緩める。


「動揺しすぎだ。可愛いな」


なぜか嬉しそうに口にして、私の手を引いて歩き出す。

火照った頬の熱はエレベーターに乗ってもまったく引かなかった。


「……送っていただいたうえ、荷物もありがとうございました」


高鳴る鼓動を持て余しつつ到着した部屋の前で、暁さんに礼を述べる。


「どういたしまして。……唯花は明日発つのか?」


「はい、まだ時間は決めていませんが」


荷物を受け取りながら返答する。

私の休暇は明後日までなので、明日の夕方過ぎの新幹線で東京に戻ろうと考えていた。

夢のような素敵な時間はもうすぐ終わってしまう。


「暁さんは今後もこちらでお仕事ですよね?」


休暇の終わりを考えた途端、襲ってきた寂しさを振り払うように明るく尋ねる。


「ああ、もうしばらくはそうだな。……唯花、俺が東京に戻ったら」


ほんの少し硬い表情の暁さんが口を開いたとき、彼のスーツの内側から振動音が響いた。

一旦は鳴りやむが、急くように再び振動しだす。

彼が大きな息を吐いて胸元からスマートフォンを取り出した。


「悪い、少し待っていてくれるか」


「大丈夫です。気になさらないでください」


スマートフォンを手になぜか渋面を浮かべる暁さんに、返答する。
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