旅先恋愛~一夜の秘め事~
「――俺だ、どうだった? ああ……構わない。わかった、部屋で書類を確認してから向かう。テラスの鍵は持っているから、堤はもう帰っていいぞ。お疲れ様」


電話の相手は堤さんだろう。

内容から推察するに、先ほど彼が話してくれた工事の件のようだ。


「話の途中だったのに、悪かった」


電話を終えた彼に謝られ、大きく首を横に振る。


「いいえ、お忙しいのに引き留めてしまってすみません」


「違う、唯花のせいじゃない。俺が離れがたいだけだ……明日でいなくなってしまうから」


誰が、とは問えなかった。

綺麗な二重の目が切なげに揺れていた。

骨ばった長い指が私の頬近くの髪をひと房掴んで、キスを落とした。

突然の甘い仕草に胸の奥がきゅうっと締めつけられる。


どうして、こんなに胸が痛むの?


なんで寂しいなんて思うの?


「……また、連絡する」


自分の感情が掴めない私には、彼の低い声にうなずくしかできなかった。

ただ、泣きたくなるような思いだけが心の奥を占拠していた。
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