旅先恋愛~一夜の秘め事~
二月初旬の京都の夜空にはちらほらと雪が舞っている。

東京と同じくらいの温度のはずなのに、寒さがやけに身に染みる。

手袋をはめた指がかじかむのを感じつつ、キャリーバッグを引く。

胸元近くまであるこげ茶色の髪にも小さな雪の粒が舞い降りる。

宿泊予定のホテルにチェックインし、暖かな部屋に足を踏み入れてやっとひと息ついた。

分厚い遮光カーテンを少しだけ開けると、ぼんやりと街灯に照らされた街並みが見えた。


今日から遅めの休暇をこの街で過ごす。

新宿に本社を構える、(ひいらぎ)不動産会社で営業アシスタントとして勤務する私は、約三年ぶりに京都を訪れた。

ずいぶん後回しになっていた休暇先を京都にしたのは、ハトコである芳賀(ほうが)麗の研修がきっかけだった。

麗の母と、綿貫(わたぬき)家に嫁いだ私の母は従姉妹同士で仲が良く、幼い頃から頻繁に互いの家を行き来していた。

東京都内に多くの土地を所有する芳賀家は、曾祖父の代から不動産業を営んでいる。

私と同じ二十八歳の麗は、その芳賀不動産株式会社の社長である父親の秘書を務めている。
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