旅先恋愛~一夜の秘め事~
「麗……私」


胸にこみ上げる想いに泣きたくなった。


『今なら、まだ間に合うんじゃない?』


「……ありがとう。私、もう一度、暁さんに会ってくる」


『うん、行ってらっしゃい。泣きたくなったら明日、付き合うから』


明るく応援してくれるハトコに礼を告げ、通話を終えた。

ソファに投げ出していたバッグを手に取り、暁さんと堤さんの数十分前の電話内容を思い出す。

私は彼の仕事場所がどこか知らない。

ただあのとき、暁さんはテラスに向かうと話していた。

室内に備えられている館内地図をじっくり眺めてテラスを探した。

幸いにも工事中とわかりやすく表記してあり、すぐに見つかった。

急いで部屋を出てテラスへと向かった。

もしテラスが見つからなかったら、彼がいなかったら、あきらめる。

でも、会えたなら……一緒にいたい。


……暁さんが、好きだ。


ストン、と心の奥底に落ちた自覚はゆっくりと根付くように花開く。

じわじわと私の胸に広がり、甘く痺れるような切なさを植えつける。

出会ったばかりなのに、なにも知らないのに、と言い訳を繰り返すけれど、惹かれる気持ちをどうしても止められない。

こんな風に感情任せに行動する自分が信じられない。
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