旅先恋愛~一夜の秘め事~
告白したいとかそんな大それたことは考えていない。

今認識したばかりの感情を、信じてもらえない可能性のほうが高い。

正直、こんな風に押しかけて、なにを話せばいいのかわからない。

でも、それでも、会いたかった。

テラスに近づくにつれ、足が震える。

けれど引き返そうとは思わなかった。



テラスはホテルの最上階にあった。

フロア自体に入れるか危惧したが、レストランが併設されているせいか、問題はなかった。

【改修工事中】と書いてある扉の前まで歩き、ギュッと拳を握りしめる。

さすがにこの中に無断で入るわけにはいかない。

そもそも施錠されているだろう。

暁さんに連絡をしようとバッグに手を入れたとき、目の前の扉がゆっくりと開いた。


「……唯花?」


眼前に、どうしても会いたかった人が立っていた。


「なんで、ここに……どうした? なにかあったのか?」


驚いた様子で矢継ぎ早に質問を続ける暁さんに、必死で首を横に振る。

胸にこみ上げる想いを口にしたいのに、うまく声を出せない。


「体調が悪いのか?」


心配そうに近づいてきた暁さんが、私の額に手を伸ばす。

その手をギュッと握りしめた。

大きな手の感触と伝わる温もりに視界が滲んだ。
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