旅先恋愛～一夜の秘め事～
「……違うの。帰る前に、どうしても……もう一度会いたかったんです」


声を絞り出し、うつむくと涙が零れ落ちそうになった。


泣いちゃダメだ。


咄嗟に唇を噛みしめた途端、グイッと体が前方へ引き寄せられた。

頬に触れるスーツの感触に涙が引っ込んだ。


「……俺がどれだけ我慢して離れたと思ってる」


私を胸に抱き込んだ彼が、うめくような声を上げる。


「仕事中に押しかけてごめんなさい。でも……」


「違う、怒ってない。離れがたいって言っただろ？あのまま唯花といたら無事に部屋に帰す自信がなかった。だから……」


「一緒にいたいんです」


彼の言葉を遮るように口を開いた私に、彼が険しい表情を浮かべる。


「……意味をわかって言っているのか？　このまま俺といるなら今夜は帰さないぞ」


問われている内容は理解している。

旅行に来る前の私なら、こんな行動は起こなかっただろう。


でも、今の私は違う。

こんなに誰かに惹かれて焦がれたのは初めてだ。

東京に帰ったら、きっともう会えないだろう。

明日には魔法がとけていつもの日常に戻ってしまう。


だから、後悔はしたくない。

強い覚悟を胸に秘め、目の前の広い胸に額を押しつける。


「……一緒に過ごしたい」


熱い想いを吐き出す声が震える。

表情は確認できないが、私を抱きしめる暁さんの腕に力がこもる。


「確認したからな……もう、逃がさない。お前がほしい」
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