旅先恋愛~一夜の秘め事~
色香の混じる掠れた声に胸がいっぱいになる。

うなずいた私の顎が長い指に掬われた。

妖艶な眼差しが真っ直ぐに私を捉える。

整った面差しを傾け、長いまつ毛を伏せた彼がゆっくりと私に口づけた。

彼との初めてのキスに心が震え、想いが溢れ出す。

額にわずかに触れる彼の髪も伝わる熱もなにもかもが愛しい。

啄むような口づけは段々深いものに変わっていく。


「……甘いな」


ほんの少し唇を離した彼が囁く。


「やめられそうにない」


そう言って、彼がさらに強く私を抱き込む。

蕩けそうな長いキスに翻弄され、頭の中がぼうっとする。

こんな、心が丸ごと奪われそうな口づけは経験がない。


「……んっ……」


力が抜け、足元がふらつく私の膝裏に暁さんが腕を差し入れた。

横抱きにされ、突如切り替わった視界に驚く。


「暁、さん!」


「暴れたら落ちるぞ」


「なんで急に……降ろしてください」


「敬語で話すのをやめたらな」


至近距離から試すように見つめられて言葉に詰まる。


「ど、努力します……重いから降ろしてください」


「俺よりずいぶん小柄で華奢なお前が重いわけないだろ」


私を抱えてるにも関わらず、危なげなく歩きだす姿に力の差を思い知る。

「このまま俺の部屋に連れていく。唯花の今の可愛い顔を誰にも見せたくないし、少しでも長く触れていたいんだ」


耳元で囁かれた言葉に、頬が一気に熱を帯びた。


「俺の胸元で顔を隠していろよ?」


甘い命令に、うなずくしかできなかった。
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