旅先恋愛~一夜の秘め事~
「――なんで、なにも言わずに戻ってきたのよ!」


一LDKの自宅を訪ねてきた麗が、ベッドに腰かけ、私を睨む。

午前中に自宅に到着し、すぐに荷解きをした。

なにかしていないと、暁さんのことばかり考えてしまいそうで怖かった。


換気と軽い掃除をして、空っぽの冷蔵庫を埋めるため買い出しにも出かけた。


その後、麗に帰宅のメッセージを送った。


返事を待つつもりが体力の限界だったようで、ベッドに横になった途端に眠りに落ちた。



翌朝、けたたましい着信音に目を覚ますと、ハトコの怒った声が聞こえてきた。

どうやら昨夜何度か電話をくれていたらしい。

一向に連絡がつかず心配したと言われた。

今日の出勤は午後からだそうで、今、車で我が家に向かっているという。



ーーそして、現在に至る。


「あのまま居られるわけないでしょ」


小声で反論しつつ、お土産を渡す。


「ありがとう。ここのクッキー好きだから嬉しい……って誤魔化されないわよ。椿森副社長から連絡は?」


「……さっき確認したら着信が残っていたけれど、かけ直していない」


「どうしてよ? 一晩過ごした相手が朝になって消えてるだけでも驚くのに、連絡もとれなかったら心配するでしょ」


「フロントに“急用ができたので帰ります”って言付けをお願いしたの」


私の返答に、麗は額に綺麗なネイルが施された指を当てる。
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