旅先恋愛~一夜の秘め事~
「変なところで冷静なんだから……誰がそんな言い訳に納得するのよ」


「……私たちは恋人でもないし、気持ちを伝えあってもいないわ」


麗には肌を重ねた件も含め、すべてを隠さずに話してある。


「あのね、女嫌いで有名な御曹司が私室でなんとも想っていない相手と一夜を過ごすと本気で思ってるの? 勝手に決めつけずにきちんと話し合うべきよ」


「……住む世界が違いすぎるわ」


「あきらめられるの?」


真っ直ぐで簡潔な質問が胸に刺さる。


「体を重ねた件をどうこう言うつもりはないわ。でも黙って帰ってきたのは賛成できない」


「一緒に過ごして、立場の違いや現実を思い知ったの。卑怯で臆病だってわかってる。だけど夢中になって引き返せなくなるのが怖かった。一旦離れて冷静になるべきだと思ったの」


旅行という非日常で我を忘れているだけかもしれない。

日常に戻り、落ち着いたら気持ちが変化する可能性だってある。


「それで、恋心が消えなかったらどうするの?」


核心をつくハトコの目を直視できない。


「椿森副社長が必死に唯花を捜したら? 椿森の力をもってすれば、子会社に勤務している唯花を捜し出すのなんてきっと簡単よ。押しかけてくるかもしれないわ」


「まさか、そんな……」


「御曹司の恋心を甘く見ないほうがいいわよ?」


なぜか楽し気な笑みを浮かべて、親友は出勤していった。
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